【ファイナンシャルプランナー浅野】

 

「主婦がFXで得た所得を隠して脱税で逮捕された」というニュースが、時々、報道されます。

有名なところで言えば、FXで稼いだ4億円の所得を隠し、1億4千万円を脱税した容疑で逮捕された主婦のニュース(2007年)です。

我々はどうしても「主婦」という言葉に惑わされてしまいます。

主婦というと、年収600万円程度の年収の旦那がいて、子供2人を育てるために家事をこなしながら自らもパートに出る、というような女性をイメージしてしまいます。

そんな主婦が百万円程度の貯金でFXを初めて、高いレバレッジをかけて4億円を稼ぎ出したのだろうと想像し、猛烈に嫉妬してしまいます。

ところがこのニュースの女性に関して調査したところ、逮捕時は60歳という年齢で、しかもFXの元手は2億円程度であったと推測されます。

恐らく彼女の家庭は元々資産家なのでしょう。彼女は逮捕されるまでに何十年も投資経験を積んでいます。その間には利益を出したこともあったでしょうけれど、大きな損失も出してきたことでしょう。

商品先物取引やFXを始めたのも、担当の証券マンから強く勧められたからだそうで、証券マンもビッグマネーを呼び込むのに必死だったのでしょう。

彼女が4億円を稼いだのはユーロに賭けるFXで、低いレバレッジでユーロを2億円分仕込み、運よくユーロが急騰したために3年で4億円の利益を生んだということです。

その間のユーロの値動きを見ると100円から160円にまで急騰しています。2億円を投入して4億円の利益を上げた、ということはレバレッジは3倍です。たったの3倍なので強制ロスカットにも合わなかったということです。

もしも元手が100万円でレバレッジを同じ3倍に設定して取引をしていたら、この間の利益はたったの180万円です。

2億円をFXに投じたこの女性も「主婦」なのでしょうけれど、我々が想像する主婦像とはかけ離れています。マスコミが脱税のニュースを流す際、視聴者の注目をひくために敢えて「主婦」という言葉を使っていることが容易に想像できます。

このニュースを見て、「主婦がFXで億を稼ぐのならば自分だって!」と意気込んでFXの世界に飛び込み、高レバレッジをかけて痛い目にあった人も多いのではないでしょうか。これは「主婦」という言葉のニュアンスの大きな罪です。

FXでは百万円を元手にレバレッジを25倍にして取引をすれば、レートが1%動くことで25万円の利益が得られます。元手が1千万円ならば250万円の利益が得られます。

少ない元手にレバレッジをかけて大きな利益を得ることは投資家の夢です。FXには確かに夢があります。

しかしレートが思惑とは逆方向に2%動いただけで大事な軍資金が半分に減らされて強制終了するという危険なゲームでもあります。これは「マネーゲーム」を飛び越えて「悪魔の遊び」だと言わざるを得ません。

高いレバレッジでFXに参加することは、自分の資産を短時間で市場に放出したい人にはお勧めします。お金をドブに捨てるよりは良いことをしていると思います。

4億円を稼いで脱税した女性は多くの個人投資家を不幸にした一方で、大事なことも教えてくれています。それは「FXをするならレバレッジを3倍に抑えましょう」ということです。

この女性は元々資産家であり、極端に言えば投資をしなくても裕福な生活ができる人なのです。そんな人が投資に参加する際に一番大事にすることは、「資産を減らすようなことはしない」ということです。

彼女が証券マンからFXの勧誘を受けて始めた頃は、400倍までの高倍率に設定できたはずです。しかし彼女は長い投資生活の中で大きく利益を出そうとすると痛い目にあう、ということをよく分かっていたのでしょう。

だからこそ、レバレッジを3倍に抑えることができたのであり、それが結果的にユーロを長期保有できることの原因となり、さらにはユーロの急騰という幸運にも恵まれて大きな利益を得たのでしょう。

株の世界でも信用取引という手法を使えば元手の3倍の取引をすることができます。逆指値という手法を使えば、FXのような強制終了と同じ安全機能も備えられます。

ところが信用取引に手を出す投資家はそれほど多くありません。「信用取引=破滅」というイメージが強いからでしょう。

しかしFXとなると、信用取引の上限の3倍を大きく超えるレバレッジを簡単に設定してしまうのです。とても不思議なことです。私は、FXのレバレッジの上限が25倍に設定されていることに原因があると考えます。

上限が25倍だと言われると、3倍という倍率がやけに低く感じます。25倍まで勝負に出れるというのに3倍程度で勝負をしている自分が肝っ玉の小さい人間に思えてしまいます。

高倍率で資産を失う個人投資家を守るため、2010年に金融庁がFXの最高倍率を400倍から50倍に制限し、さらに翌年には25倍までに制限しました。ところがその際、日本中のFX業者が「自由な取引を阻害している」「規制緩和に逆行している」と猛反発しました。

FX業者にしてみれば、「元手の400倍の取引ができる」という魅力的なキャッチコピーは投資家を呼び込むのにとても重要なものだったのです。投資家が損をするかどうかは二の次です。

わたしは25倍の規制基準でも高すぎると考えています。「25倍まで倍率を上げられる」という事実が、個人投資家の判断を狂わす原因となり続けるからです。

株の信用取引にはかつて「2階建て」と呼ばれる制度が存在しました。元手の3倍の2階建て、つまり6倍まで設定することができたのです。しかし多くの個人投資家がそれによって借金を負い、自己破産するケースも続発しました。その結果、金融庁が2階建ての制度を廃止するに至りました。

われわれ庶民が高レバレッジでFX取引をしても、決して4億円の利益を出すことはできません。身の丈に合った投資額で、それぞれが楽しめばいいと思うのです。