(ワゴンR 55歳 女性 主婦 宮城県)

 

リーマンショックで私は550万円を失いました。

5社ほどの株式を持っていて、軒並み暴落したためです。リーマンショック後に全てを売り払いました。

1億円の貯金があって550万円の損をしたのではありません。主婦の私は1500万円しかない貯金で550万円の損失を出していたのです。

私にとっては大損です。

「素人の主婦が投資なんかに手を出すからだ」と、世間のみんなから言われている気がしていました。

本当に情けない思いです。

この事実からはどこに居ても逃げることができませんでした。

テレビを見ていても、家族でご飯を食べていても、この陰鬱とした記憶が私を苦しめました。

そんな感情に2ヵ月耐えました。

リーマンショックの2008年が終わり、年が明けました。でも正月気分には浸れませんでした。

ニュースでは東証の大発会で晴れ着の女たちがすがすがしい笑顔で鐘を鳴らしていました。その涼しい笑顔にむかつきました。

私が負けた『市場』というものは形あるものではありませんが、東京証券取引所はそれを象徴している場所でした。

何年たっても、この溶岩地獄ようなドロドロとした感情からは抜け出しすことはできないと思いました。

『やはり市場からは逃げることなんかできないんだ。戦うしかないんだ。』

2009年の正月明けに、そう思い直そうとしている自分がいました。

その頃、FXが見直されていました。

リーマンショックで株と投資信託がダメになっていくなかで、FXは金融市場の混乱に関係なくもうけられると言われていたのです。

そんなある日、専業主婦が脱税で摘発されたというニュースが流れました。

東京都内の主婦がFXで3億円の利益を上げていながら税金を納めていなかったという容疑でした。

私はこのニュースに完全に触発されました。

「主婦が3億円をもうけられるのか」と。それまでマネー雑誌のあおりでしかないと思っていたFX神話は本当なんだと思ったのです。

FXだ。私を救ってくれるのはFXだと思いました。私はFXで550万円を取り戻してやると心に決めたのです。

私の普通預金には800万円の貯金が残っていました。

「これをたった2倍にすれば550万円の損失は消え、おつりがくる。もう、もうけようなんて思わない。失ったお金を取り戻せたらそれでいい。私はFXで金を取り返す。逃げ続けるより戦い続けるほうが自分には合っているんだ。」

そう決心したとたん、ドキドキしている自分がいました。

その頃、テレビ東京のワールドビジネスサテライトの中で、西山茉希の『外為オンライン』のCMがよく流れていました。

私は早速、外為オンラインのサイトにアクセスし、口座を開きました。

「これで私も時代の先端を行くFXトレーダーだ。私もあのニュースの主婦のように、やがては億の利益を出すFXトレーダーになるかもしれない。」

と、淡い期待も抱きました。

私が購入したのはやはりドル円でした。NHKのニュースの最後に必ず紹介されるのはドル円レートですし、最もなじみがありました。今までの動きは何となく分かっていたと思うし、これからの動きも何となく予想ができそうな気がしたのです。

とりあえず100万円でドルを買うことにし、レバレッジは当時の最高の400倍に設定しました。

その頃、1ドルはちょうど100円前後でした。私は4億円分のドルを保有したのです。

興奮しました。4億円の金を動かしていると思うと、私の損失額の550万円がちっぽけに思えました。

期待に胸が膨らみました。1ドルが1円高くなるだけで400万円の利益を得られるのだという皮算用もしました。

FXの取引画面を開くと、秒単位で為替レートがピカピカと変化していました。なんとも言えない高揚感に包まれました。

私の4億円が秒単位でプラスになったりマイナスになったりする。マイナス1万円になった次の瞬間にプラス2万円になりました。

これは・・・。こんなに面白いものが世の中にあるのかと心底思いました。

中学の修学旅行の時のようなめくるめく高揚感。あれを大人になって再び体験できるとは思いませんでした。

本当にそう感じたのです。「血沸き、肉躍る」とはまさにあの時のことです。

画面を見ているとドキドキしすぎて、なんだかしんどくなりました。緊張からなのか、指先が冷たくなっていったのです。もう画面を見ていられませんでした。

そこで私はパソコンの画面を閉じて買い物に出かけることにしました。行き帰りの時間も含めて3時間は家を空けることになります。

3時間後が楽しみでした。

買い物をしている間も、ワクワクが止まりませんでした。家に帰ってパソコンを開いたら100万円が500万円になっている可能性もある。買い物をしている間に400万円の利益。

そんなことを思い描いていました。

そして3時間後に帰宅してパソコンを開きました。いつもの癖で、まずメールをチェックしました。

するとそこに、外為オンラインから一通のメールが届いていました。そこには『約定いたしました』の言葉がありました。

どういうことかまったく分かりませんでした。私は指値注文はしていなかったからです。慌ててFXの取引画面を開いてみました。

すると、100万円が50万円になって取引が終了していました。

レートが私の予想とは逆に動き投資額が50%まで減少したために自動的に強制終了されていたのです。

放心状態でした。何が起こったのか理解するのに時間を要しました。そして思い直しました。

「今回は運が悪かったんだ。2分の1の確率でハズレただけだ。これが逆に動いていれば50万円もうけられていたはずだ。」

その時はそう思いました。次の日、私は新たに100万円でドルを購入しました。レバレッジは同じく400倍です。

同じように画面を見ていられませんでした。ドキドキが止まらないからです。やはり私はパソコンを閉じて外出することにしました。

スーパーで買い物を済ましてアパートに帰り、期待に胸を膨らましてFXの画面を開きました。

100万円が50万円になって取引が強制終了されていました。

FXの難しさが分かり、3億稼いで脱税をしたあの主婦の偉大さを感じずにはいられませんでした。

そして私は恐れおののきました。FXを続けていたらあっという間に貯金が無くなってしまう。私はその日のうちに外為オンラインを解約しました。

スリリングな2日間でした。2日で100万円を失いました。あまりのあっけなさにショックを受ける暇さえなかったのです。

自分が怖くなりました。

「私は市場というアリ地獄の深みに吸い込まれようとしている」

私の損失は550万円から650万円に増えました。

今も損失を取り返すために奮闘中です。

 

FXのレバレッジ(倍率)設定が自由にできることの功罪

【ファイナンシャルプランナー浅野】

 

投稿者のワゴンRさんがおっしゃっているように、FXで設定できるレバレッジ(元手に対する取引額の倍率)は、かつては400倍まで設定できました。

私も過去に倍率を400倍に設定してFXの取引をしたことがありますが、損益の増減が激しさについていけずに数分で取引を終了しました。

FXの最高倍率は2010年8月1日に50倍までに制限され、その1年後の2011年8月1日にはさらに半分の25倍までに制限されました。

しかし25倍といってもかなりの高倍率です。予想に反して1ドル100円が99円に下がると、元手が4分の3に減少し、1ドルが98円にまで下がると元手が半分になるというレベルです。

つまり、25倍の倍率であったとしても、為替レートが予想とは反対方向に2%動くと投資額が半減するというわけです。

高いレバレッジはFXの大きな魅力ですが、実際に25倍で取引をすると強制終了のリスクが高く、取引が長続きしません。

倍率1、つまりレバレッジを全く効かさずに取引をすればFXは安全な投資方法です。一日のうちに為替が1%以上動くことはまれですから、投資金額もその範囲内で変動するだけです。

レバレッジを効かさなくても、1週間もすれば為替はそれなりに値動きがありますので、安定株と同じ程度のおもしろさも感じられます。

ところが、FXに参入する人の多くは高倍率で取引をしてしまい、早々に撤退してしまうという現状があります。

これは私の想像なのですが、誰しもがFXをやり始めてしばらくすると、恐らく同じ結論に到達してしまうのでしょう。それは、

「倍率を上げて取引をすれば、一週間分の利益を数時間でもうけられるではないか。」

ということです。

この結論の厄介なところは、それが間違っていないというところです。その通りなのです。

しかしその反面、損をするときも1週間分の損失を数時間で達成できるわけですが、そのことに関してはあまり深く考えようとしません。

より短期間で同じ利益を得られる手段を目の前に提示されていながら、それを利用しないという選択をすることは、想像以上に難しいものです。

結果として多くのFX参入者が早晩、最高倍率にまで引き上げて取引をするに至り、FX市場から撤退するということになってしまうのです。投資家がFXで大きく損をしてしまう原因は、レバレッジ設定の自由度にあると言えるかもしれません。

とはいえ、FXが金融市場の低迷に左右されずにもうけを出すことのできる投資方法であることは間違いありません。

為替レートは2国間の通貨価値のバランスによってのみ決まるという分かりやすさがあり、一部の仕手筋による力も及ばないという公平さも魅力です。投資先としては安全なのです。ところが、倍率の設定に自由度がありすぎることが、個人投資家を迷わしてしまうのです。