【ファイナンシャルプランナー浅野】

 

わたしの中学時代の歴史の教科書には、「1929年 世界恐慌」という文字が太字になっていました。「ひどく(19)憎(29)む世界恐慌」と、その歴史的意味も考えずに年号だけを覚えたものです。

最初に大きくNYダウが下げたのが1929年10月24の木曜日で、ブラックサーズデーと呼ばれています。投資ブームのために、それまでの6年間でNYダウは5倍に急騰していたのです。世界恐慌は起こるべくして起きたともいわれています。

それを予見した投資家のひとりが、ジェシー・リバモアです。彼はブラックサーズデーの2ヵ月前に、株価の下げに賭ける「空売り」という手法を仕掛けており、ブラックサーズデーが起きたことで現在の貨幣価値で4000億円の利益を出したと言われています。

世界中の投資家があたふたしている中で、利益を出すとはけしからん奴です。しかし同時に強烈に嫉妬してしまうのも事実です。

彼のように不況の局面でも利益を出す投資方法は、現在もたくさん存在します。

代表的なものが株の「信用取引」というものです。元手の3倍の取引ができるシステムを信用取引と呼びますが、株の下げに賭けるという手法も信用取引の一種です。

このシステムを使って株の取引をすると、その株価が下がれば下がるほど利益が出るという逆転現象を起こすことができます。

投資信託の世界にも不況に乗じて利益を出す商品が存在します。熊がツメを振り下ろして敵を制する様子になぞらえてベア(bear=クマ)型投資信託という言い方をします。

楽天投信顧問の「楽天日本株トルプル・ベア」、SBIアセットマネジメントの「SBI日本株3.7ベア」、T&Dアセットマネジメントの「日本債券ベアファンド(5倍型)」などがベア型投資信託と呼ばれるもので、投資対象の日本株や日本債券が下がれば下がるほど利益が出ます。

つまりわれわれ個人投資家であっても、ジェシー・リバモアのように不況に乗じて利益を出すことは可能なのです。そのためのシステムはすぐに手が出せるところにあります。

通常の投資方法で損をし続けた個人投資家が、こういう商品につい手を出したくなる気持ちも分かります。「上げに賭ける才能が無いということは、もしかすると下げに賭ける才能はあるのではないか?」と考えてしまうものです。

また上昇局面で運よく利益を出せた個人投資家がさらに欲を出して、「上昇局面では上げに賭けて、下降局面では下げに賭ければ、今までの2倍の利益を出せるのではないか?」と考えてしまう気持ちもよく分かります。

しかし、素人は下降局面で利益を出す商品には手を出すべきではありません。

市場が上向くことだけに賭けていて運悪く大きな含み損を抱えるに至った場合は、5年も我慢していれば市場を取り巻く環境が改善して含み損が解消する、という可能性が大いにあります。

市場は長い目で見ればインフレとデフレ、好況と不況を繰り返すということは歴史が証明しており、マクロ経済学の「いろはのい」です。

下がったものはいずれ上がり、上がったものはいずれ下がるしかないわけです。投資のことがよく分からない素人であっても、含み損を抱える苦しみにひたすら堪えるというだけで、元の状態に回復する可能性は十分に残されています。

個人投資家は機関投資家とは異なり、投資しているお金は自分のものです。自分のお金ですから何年でも塩漬けにしておけるのです。これは機関投資家が持ち合わせていない強みです。

このように、「上げ」だけに賭けている限り、どんなに含み損が膨らんだとしても、最終的には「時間」に救いを求めることができます。

しかし「下げ」にも賭けはじめると、この「個人投資家の最後の砦(とりで)」が崩壊します。

株の信用取引システムを利用して「下げ」に賭け、株価が上昇して含み損が膨らむと、「もうダメだ。今は下げに賭ける時ではない。今は上げに賭ける時だ。」と損切りをしてしまいます。

「上げ」だけに賭けている時は損切りをせずに含み損に耐え続ける素人が、上げと下げの両方に賭けることを覚えてしまうと、早々に損切りをして逆方向に賭け直すという行動パターンに出るのです。

結果として、上げ相場でも下げ相場でも損をし続けるという悪循環に陥りかねません。

こういう損の仕方をしてしまうと、「下がったものはいずれ上がり、上がったものはいずれ下がる」という救いが失われます。

悪材料が出て株が下がって損をしたのであれば、その悪材料が払拭された時に元の株価に戻る、という力学が働きます。逆に好材料が出て上がった株は、過熱状態が無くなれば元の株価に戻る、という力学が働きます。

ところが、上がったり下がったりした株というものには「元に戻る」という力学は働きません。上げと下げの両方で損をした人は「ひたすら含み損に堪えて待つ」という個人投資家の強みを生かせないのです。