(匿名希望 70歳 男性 会社経営 山梨県)

 

40代に自動車の海外輸出の事業を起こし、おかげさまで従業員が30人ほどの大きさにまで拡大することができました。

ようやく会社が軌道に乗ってきたのは50歳を過ぎてからで、そのころから金銭的にも余裕ができるようになりました。

私が株を買うようになったのもその頃からです。

株はおおよそ1千万円単位で購入してきました。それが私なりのリスク分散でした。

正直なところ1千万円の株券が紙屑になったとしても、本業の輸出業が順調だったこともあり許容できると考えていました。

そうやって手を広げていった結果、私は最終的に20前後の銘柄を保有していました。

それぞれ1千万円のルールは守っていましたので、保有総額は2億円です。

銀行預金はインフレリスクを考えると万全ではなく、資産は一定割合を株式で保有しておいたほうがむしろリスク分散にもなるとの考えからです。

恐らく億を超えるお金を持っている人で、現金だけで保有している人はまずいないのではないでしょうか。

私にとって株式投資は、資産を守るための安全行動のつもりだったのです。

しかし、その思想が砕け散る時がやってきました。

2008年9月15日。「リーマンブラザーズ破綻」というニュースが飛び込んできました。

リーマンブラザーズという名前はなんとなく聞いたことはありましたが、何をやっている会社なのかは良く知りませんでした。

輸出業というグローバルな事業に携わっていながら、誠にお恥ずかしい限りです。

しかしそのことが意味する深刻さは、報道を見ていれば分かりました。

アメリカの金融業界を引っ張ってきた企業の倒産は、世界の金融市場を大パニックにおとしいれたのでした。

普通は200円も動けば大きく動いたという印象を受ける日経平均株価が、一日に千円を超える乱高下を繰り返しました。

日経平均は1万円をあっさりと割り、8000円台、7000円台へと突入していきます。

最終的に6000円台をつけた時にようやく底を打ったものの、そこからは延々と横ばいの状態が続きました。

私が保有する株を全て売却したのはリーマンショックから2カ月が経過したころです。

2億円の投資額が4千万円となりました。1億6千万円の損失です。

この金額は私の許容範囲を超えていたようです。損失を確定してから、私の自律神経に不具合が出始めました。

まずは睡眠障害です。深夜3時から4時にならないと、眠りにつけませんでした。ようやく眠りについたと思ったら2時間程で目が覚めるのです。

便通もおかしくなりました。以前は毎朝、普通にお通じがあったのですが、損失を確定してからは3日以上お通じが無いことが普通になりました。

さらに冷暖房に対する体の適応力が無くなりました。会社の冷房がとにかく寒く感じ、一人だけ厚着をしていました。

あれからもう何年も経ちました。

自律神経はだいぶよくなってきましたが、寝る時は必ず処方された睡眠持続薬を飲むようにしています。

私は未だ、リーマンショックから立ち直れていません。

 

「リスク分散」という言葉の功罪

【ファイナンシャルプランナー浅野】

 

「株を購入する際は、ひとつの銘柄だけに投資するのは危険なので、いくつかの銘柄に分散させておくことが大事だ」ということがよく言われます。

その会社が不祥事を起こすと株価は急落しますから、株はひとつの銘柄ではなく幅広い銘柄を買っておけば「リスク分散」ができて安全だというわけです。

例えば日産自動車のような優良企業であっても、内部告発によって検査体制の不祥事が暴露されて株価が急落することもあります。

仮に1000万円がある場合、日産自動車に1000万円投資するのではなく、ニッサン、トヨタ、ホンダ、スズキ、スバルのそれぞれに200万円ずつ分散させて投資をすると、リスクは5分の1になって安全だというわけです。

ただ、円高になれば輸出産業である自動車関連株は全て株価が下がりますから、次は輸入関連株を購入するというリスク分散を考えなさいと言われます。

輸出関連株と輸入関連株の両方を持っていれば円高になっても円安になっても大丈夫だというわけです。

しかし、私はこの「リスク分散」という言葉はとても罪な言葉だと思っています。

この言葉からはあたかも、「幅広い性格の銘柄を買っておけば損失のリスクを避けられる」という印象を受けてしまいます。果たしてそうでしょうか。

「分散」という言葉は散らばっているという意味であり、決して最小限に抑えるという意味ではありません。

円高、円安を繰り返すだけの平坦な市場においては、確かに輸出関連株と輸入関連株のプラスとマイナスがお互いを相殺しあって損失もプラスマイナスゼロということになるかもしれません。

投資家としては何の面白味もありませんが、少なくとも損失を回避するということには成功しています。

しかし世界同時株安になれば全ての銘柄が何の根拠も無く下がります。

リーマンショックや同時多発テロ事件のような外的要因によって日経平均株価が大きく下がると、どんなに会社の業績がよくても株価は下がります。

よくマネー雑誌などで「下げ相場でも上げている個別銘柄」のような特集があり、株は市場の状況に関わらずもうけられる方法があるかのようなことが語られています。

しかしそれは、結果論です。全面安が続くような状況の中でも、そのタイミングで営業利益の上方修正の報道が出るような場合があります。何かしらの特殊な理由が無ければ全面安には対抗できません。

全体が下げている時に自分の銘柄だけが上がるということを想像すると少しワクワクします。そうしたいやらしい投資家心理をマネー雑誌は巧みに突いてくるわけです。

どれだけ多くの銘柄に分散したところで、リスクが消えることはありません。

投資はリスクを深く理解することから始めなければいけません。自分が購入した株が大きく下がって資産が半減するような状況をリアルに想像することが重要です。

そのような最悪の状態を想像することを避けている人は、投資のリスクを認識できていないということです。「自分はそんなヘマはしない」と思っている人ほど、そのような状況に陥るのです。

「もしかしたら大損をするかもしれない」と想像する人は、大きな金額を投資しません。リスクを小さくするための方法は、投資額を抑えること以外に存在しないからです。