(KATSU 男性 48歳 水産業 沖縄県)

 

私が東京電力の株を購入したのは2009年でした。

リーマンショックが次第に落ち着きつつあった頃で、金融市場が盛り返すことを見越して株式銘柄を物色していました。

そのころ読んだマネー雑誌で、東京電力の配当金だけで生活をしている男性が取り上げられていました。

その男性は元々は焼肉店を経営されていて、55歳の時点で相続財産を含む手元のお金が1億円に達したため焼肉店を閉店し、その1億円で東京電力の株を購入したということでした。

当時、東京電力の株価は2500円程度でしたので、1億円分だと4万株ということです。東京電力株は1株あたり年間60円の配当金が出ていましたので彼は4万株×60円で240万円の収入を得ることになったのです。

焼肉店経営時の手取り年収が400万円程度だったそうなので、年収としてはダウンです。しかし、夕方から深夜まで働いて年収400万円なのと、一切働かずに年収240万円では後者のほうがいいに決まっています。

私はその記事に衝撃を受けました。定年まで働き通すことだけが人生ではないなと思ったのです。大げさに言えば自分の人生観がわりと大きく変わったのを覚えています。

私には1億円はありませんでしたが、2千万円の貯金がありました。その全財産である2千万円で東京電力株を購入しました。私が購入した時も株価は2500円程度でしたので、8千株購入したことになります。

これで私のふところに、毎年60円×8千株の48万円が入ってくることになりました。

この時は、自分がワンランク上の人間になったという感覚を覚えました。がむしゃらに働くだけでなく、お金にも働いてもらって不労所得を得るという、ある種の特権階級にのぼってきたのだと実感したのです。

2010年3月の末に初めての配当金が出ました。半期分なので30円×8千株で24万円でした。さらに半年後の2010年9月にも、24万円の配当金が出ました。

そして、次の年の2011年。私にとって3度目の配当金が出るはずだった3月。それは起きてしまいました。

東日本大震災の津波による福島第一原発全電源喪失。1号機および3号機の水蒸気爆発。

あの映像には我が目を疑いました。自分の見ているニュース映像が本当に起こっていることなのかと疑ったのは、9.11同時多発テロのニュース以来、二度目でした。

 

<東京電力株・東日本大震災前後値動き>

 日付  前日比 終値
 3月10日  10円高 2153円
3月11日 32円安 2121円
3月14日 500円安 1621円
3月15日 400円安 1221円
 3月16日 300円安 921円
 3月17日 123円安  798円

(編集部により挿入)

 

東京電力株は、震災前後の5営業日で62.9%下げたのです。

2千万円を投入した私の東京電力株の価値は640万円になりました。1360万円が1週間で吹き飛びました。

すぐに売ろうとしました。しかし3日連続でまったく売ることができなかった時点で売るのを辞めました。売るのを辞めた時点で、ずっと売らずに持っておこうという覚悟をしました。

「東京電力がつぶれることはない。政府がつぶすわけがない。株が紙屑になることはない。」

そう信じることだけが私の心の支えでした。

「配当金をもらうことを目当てに購入した株であり、売ってしまったら当初の目的が果たせなくなるではないか」というささやかな抵抗心が、私の心の片隅に小さな炎をともし続けていたのです。

月末、東京電力は決算を迎えました。なんと、配当金が出ないことが発表されたのです。

東京電力株を保有し続ける意味すらも失われてしまいました。

520円の指値注文を入れ、8千株すべてを売却しました。1580万円の損失が確定しました。

東日本大震災により、私は資産の4分の3を失いました。1億円を投じていた元焼肉屋の彼の惨状を想像することだけが私の精神を安定させました。

大地震による原発の爆発。そして保有株の暴落による大損。この一連の経験で、私は自分の中のあさましさをまざまざと見せつけられました。

東日本の沿岸部で2万人以上の人命が失われ、住民は生活の場を奪われ、明日への希望を奪われました。

私は遠く沖縄で、生活の場は当たり前に与えられ、放射能汚染の恐怖にも怯えずに生きています。であるにも関わらず、単に自分の資産の4分の3を失ったということで地震を恨み、原発事故を恨み、精神を病みました。

その意味において、私はあの時期に株を保有していたことを後悔しています。東日本の被害を純粋に悼む気持ちを持てなかった自分のあさましさを心底恥じているのです。

 

電力株の配当で暮らすという考え方について

【ファイナンシャルプランナー浅野】

 

電力会社が倒産することはないという考え方は、皮肉にも東日本大震災を通じてより確かなものになりました。しかし、原発リスクによって電力会社の株価は急落するということが分かりました。

日本には、北海道電力、東北電力、北陸電力、東京電力、中部電力、関西電力、中国電力、四国電力、九州電力、沖縄電力、の10の電力会社があり、いずれも東証一部に上場しています。

そのうち、原子力発電所を持たないのは沖縄電力のみです。したがって他の9つの電力会社は地震や津波による原発事故により、株価が大きく下がるリスクを秘めていると言えます。

 

川内原発

<<九州電力川内原子力発電所>>

 

配当を得る目的で電力株を購入する際は、この危険性を認識しておく必要があります。

とはいえ、電力株の配当の大きさは確かに魅力的です。日産自動車やサンリオなどが高配当株として有名ですが、業績によって大きく株価が変動します。その点、電力会社は、原発事故のようなことが起こらなければ業績不信に陥るということはありません。

老後の資金として貯めた1000万円を金利0.3%の10年定期に預けたとしても年間3万円にしかなりませんが、配当3%の電力株に投資すれば年間30万円を得ることができます。

「3万円を選ぶか、30万円を選ぶか。」と問われると、つい勇気を出して30万円を取りに行きたくなるものです。

しかし、ここで当たり前のことをひとつ確認しておく必要があります。

電力株のような安定株は急に変動することはありませんが、日経平均株価に引きずられます。当たり前の話ですが1年後に3%以上株価が下がると損が出ます。

つまり、株価2000円の電力株を購入した場合、1年後に株価が1940円以下になっていれば、配当を考慮してもマイナスになるということです。

配当狙いで電力株を買うということは、「2000円の株価が1年後に60円以上は下がっていない」ということに賭けるということです。1年という長い期間を要する丁半博打だというわけです。

株を売買することが趣味だという人にとっては、1年もの長い間、売買の機会を損なわれることには耐えられないかもしれません。3%程度の利益なら、デイトレで1日のうちに利益を出せるかもしれませんからね。

電力株を購入する際は大投資家のウォーレン・バフェットの精神を持つことをお勧めします。彼はいったん購入したら自分の考える売却時期まで株価が上がろうが下がろうが気にも留めません。まさに王者の風格です。

それと同じように、一年後に電力株の株価が下がっていて含み損が出たとしても気にしない覚悟を持つのです。「5年もたてばまたもとに戻るだろうし、逆に含み益が発生するかもしれない。」という気持ちで構えておくわけです。

いずれにしても全財産をそこに投入するのはお勧めできません。毎日の株価が気にならない程度の購入額にとどめておかなければ、長期保有のスタンスに立つことはできません。