【ファイナンシャルプランナー浅野】

 

株や投資信託で大損をしてしまう人に共通していることの一つが、損切りに関してルールを決めていない、ということです。

損切りのルールを決めてそれを守っている限り、投資金額を半分にまで目減りさせるというようなことはあり得ません。(投資金額が半分になれば損切りをする、というルールであれば話は別ですが。)

個人投資家が損切りをするまでの心の葛藤は、皆、同じようなものです。

購入した株が5%下がると、「まずいな。失敗したかな。このまま下がり続けるのかな。いや、すぐに切り返すかもしれない。」と心の葛藤がはじまります。

10%下がると、「うわぁ、まずい!でもここまで下がったのだから、もうそろそろ切り返して上がるのでは。」と我慢するのです。

そして20%下がると、「もうダメだ!今後も下がり続けるに違いない!」と狼狽(ろうばい)してしまい、損切り、つまり売却を決意するのです。

個人投資家は「下がりに下がって元に戻ることが期待できないほどの悲惨な状態」にならないと、損切りをするという勇気を振り絞れないのです。

20%で我慢の限界がくるならまだいいほうで、投資金額が半減するまで我慢してしまう殊勝(しゅしょう)な個人投資家が、いかに多いことか。

なぜそこまで我慢するのでしょうか?答えは簡単です。

「売ったあとに値上がりすることが怖い」からです。

株を持ち続けていることによる損失の拡大も怖いのですが、それ以上に、売ったあとに値上がりすることのほうが、恐怖の度合いが強いのです。

損切りをしない個人投資家は、「売ったあとに値上がりするという屈辱を味わうくらいなら、今の含み損に耐えるほうがマシだ」と、心のどこかで高(たか)を括(くく)っているのです。

損切りをするかどうか迷う心の正体は、売った後に値上がりする屈辱を味わいたくないという気持ちそのものなのです。

したがって、購入した株が値下がりするたびに、個人投資家はビクビクとおびえながら、売ろうかどうしようかと悩み苦しむハメになるのです。

しかし、損切りルールを作って守ることにすれば、この苦しみからは解放されます。

例えば、「購入した株が10%下がれば必ず売る」という損切りルールを作ってそれを死守するとします。

そうすれば、購入した株が下がり始めても「売ろうかどうしようか」と思い悩む必要はありません。ルールに従って10%下がるまでは持ち続け、10%を越えれば売るだけです。

しかし、現実にこれができる個人投資家はほとんどいません。その理由はただひとつ。

「自分が購入した株は必ず下がる。だから自分は一生損切りを繰り返すだけになるのではないか?」と、個人投資家自身が思っているからです。

特に長年にわたって損をし続けている個人投資家が、このような考えを持ってしまうのは仕方の無いことかもしれません。

個人投資家の多くがこのような考えに陥ってしまうのは、損切りルールの一方の側面しか見えていないからです。

損切りルールを決めるということの、ひとつの側面は、「損失を最小限に抑える」ということです。これは上述したとおりです。

しかし損切りルールを決めるということには、もうひとつの側面があります。それは「利益を確保する」ということです。

ピンとこない方もいらっしゃることでしょう。しかしこのことはプロの投資家にとっては常識です。それを理解すれば損切りに対する考え方が変わります。

ここでは分かりやすく、購入時の株価が1000円で、損切りラインは「マイナス10%」とします。10%下がれば売却するということです。

購入時の損切りラインは900円になります。購入後に株価が下がりはじめた場合は、900円になった時点で売却することになります。この場合は「損失を最小限に抑える」という損切りの機能が発動したことになります。

逆に株価が1200円に値上がりするとします。この時、損切りラインは900円のままにしておくのではありません。1200円から10%マイナスの1080円にまで損切りラインを引き上げるのです。つまり1080円まで株価が下がれば売却するという指値注文を入れておくのです。

これを専門用語で「逆指値・・・の売り注文を入れる」という言い方をします。

通常の「指値」の売り注文は、ご存知の通り、「株価が〇〇円まで上がったら売る」という注文です。「逆指値」はその逆で、「株価が〇〇円まで下がったら売る」という注文のことです。ネット証券の取引画面には必ず逆指値を入れる項目があります。

1080円で「逆指値」を入れておけば、株価が急激に下がり始めたとしても、80円の利益は得られます。

株価が1300円、1400円と順調に上がっていく場合は、それに伴って損切りラインも、そのマイナス10%にあたる1170円、1260円と押し上げていくのです。

こうすることで、上がり続ける株を早々に売却してしまうことなく、上値を追い続けることができるようになります。利益を最大限取り込むうえで、「逆指値」の利用が必要不可欠です。

このように、含み益が出ている株に対して逆指値を入れることを、厳密には「損切り」とは言いません。しかし、考え方は損切りと何ら変わりません。

つまり損切りという概念は、上昇する株を早期に売ってしまうことなく、出来るだけ多くの利益を取り込むために考え出されたものでもあるのです。

損切りの習慣を身に着けるということは、大損を防ぐだけでなく、上昇する株の利益を取りこぼさないための強力な武器を身に着けるということなのです。