(匿名希望 46歳 男性 会社員 東京都)

 

私はこの世で最も不幸な個人投資家だと思います。

これまでの投資人生で散々負けてきた私です。ずっと一発逆転を狙っていました。

何か問題を起こして大きく下がった銘柄を購入し、好材料が出て株価が跳ね上がった時点で売り抜ける。

それをずっともくろんでいました。

2015年11月3日土曜日。NHKのニュースを見ていると、気になるニュースが飛び込んできました。

アメリカの国家道路交通安全局が、エアバックの欠陥に関する情報開示を適切に実施しなかったとしてエアバック大手のタカタに約240億円の民事制裁金を科すと発表しました。

休み明けからタカタの株は大きく動きました。

休み前の11月2日は1373円だったタカタの株は暴落し続け、11月6日に834円で下げ止まりました。実に40%の暴落でした。

巨額の制裁金とリコール費用、そして訴訟費用がタカタの経営を急激に圧迫するのではないかと投資家が判断したのでしょう。

「これだ」と思いました。

かつてアメリカでプリウスの急加速による事故が相次いだことがありました。その際、トヨタは大規模リコールを実施して信頼を取り戻したという事実を私は知っていました。

タカタはエアバックで世界シェア2位。必ず信頼を取り戻し、そして株価は元に戻る。私は確信しました。

楽天証券の口座に1000万円を入金しました。

念のため1カ月間はタカタ株の動きを観察しました。

タカタ株は下がることはなく、少し上向きました。

2015年12月1日、タカタ株を930円で1万株の指値注文をし、約定しました。私は930万円分のタカタ株を購入したのです。

ところが。

年明けからタカタ株は下がり始めました。

930円で購入したタカタ株は2月には500円にまで下がったのです。

実に430万円の含み損の発生でした。

悪夢を見ているようでした。

必ず反転して上昇すると考えた私の読みは間違っていました。

でも私は開き直りました。回復するまで5年でも10年でも持ち続けてやると心に誓ったのです。

 

しかし、それがすべての誤りでした。

 

2017年6月16日 金曜日の早朝でした。

タカタが民事再生法を申請する見通しだという報道が流れました。

私は頭をピストルで撃ちぬかれたような衝撃に襲われました。

 

わたしはやってしまったのです。

 

こうなると売ろうと思っても売れないことは分かっていました。

そして下がりきったところでいったん少し上がることも学んでいました。

そこで売ればいいと考えました。最悪の心理状態の中、われながら冷静だったと思います。

 

報道が流れた6月16日金曜日のタカタ株の取引は停止され、週明けの月曜日から取引が再開されました。

6月19日月曜日。80円安の404円でストップ安。

6月20日火曜日。80円安の324円でストップ安。

6月21日水曜日。80円安の244円でストップ安。

6月22日木曜日。134円安の110円で取引終了。

 

報道から4日目にしてようやく取引が成立したようでした。想定の範囲内でした。

その日、少しうれしいニュースが入ってきました。トヨタ、日産、ホンダなどの国内自動車メーカーがタカタに資金的な支援を表明したのです。

その影響で翌6月23日金曜日にタカタ株は160円まで上がりしました。

私は売りたい欲求を抑え、週明けにもう一段上がると予想しました。

しかし予想は外れ、週明けの6月26日の月曜日は取引が停止されました。

私は焦り、成行で1万株すべてを売りに出しました。

6月27日火曜日。取引は再開されたましが、私の株は売れませんでした。株価は22日の終値と同じ110円を示していました。

6月28日水曜日。株価は恐ろしく下がりました。前日比68%安です。

 

(編集部により差し込み)

 

私の1万株は34円で約定しました。

930万円が34万円になりました。896万円の損失が確定しました。

 

私が買った株はどうしてこんなことになるのでしょうか。私が何をしたというのでしょう。どうして私だけこんな目に遭わなければいけないのでしょうか。

 

押し目買いは危険なギャンブル

【ファイナンシャルプランナー浅野】

 

企業が不祥事を起こすと株価は急落します。想定を超える赤字決算を発表した時も急落します。

何かしらの悪材料によって企業の株価が急落した時に、あえてその株を購入することを、俗に「押し目買い」と言います。

押し目買いをする投資家の心の支えは「下がった株は反動で上がるかもしれない」という希望的観測です。

ところがタカタ株のようにいったん急落したあとも、状況がどんどん悪化するようなケースも存在するため、押し目買いはギャンブル性の高い投資行動だとも言えます。

不祥事によって株価が下落した場合は、そのことが業績にそれほど大きな影響を与えることはないという見通しが立てば株価は戻ります。市場の興味はその企業が社会的責任を果たすかどうかよりも、業績に影響があるかどうかだけです。

想定を超える赤字を出して株価が下落した場合は、次の決算見通しで業績が上向いていることが発表されれば株価は急回復します。

押し目買いをした企業の株価が運よく急回復すればひともうけできるわけですが、タカタのケースのように日を追うごとに状況が悪化していき民事再生法適用という末路をたどることもあり得ます。

そうなると投資した額がほぼゼロになります。

素人投資家は大きく下げた株ほど魅力を感じ、押し目買いをしたい衝動に駆られるものです。

しかし、株価というものは未来の事象を織り込んで動くものです。大きく下げる株というのは将来の民事再生法適用の可能性を織り込んで下げている可能性もあります。

不祥事を起こしたり、決算が赤字であったとしても、しばらくすれば持ち直すであろうと判断された会社の株はそれほど大きくは落ち込まないものです。

押し目買いをする場合は、下げのきつい銘柄には大きく賭けすぎないことです。