(Takauji 56歳 男性 会社員 奈良県)

 

2016年、アメリカ大統領戦の最終局面。ヒラリーなのかトランプなのか。

世界中がその結果に注目していた。

私も違う意味で注目していた。どちらが大統領になったにしても、株価が大きく動くのは間違いないと思ったから。

現状維持派のヒラリーに決まれば、ひとまず安心ということで株価は上昇。

ぶち壊し屋のトランプに決まれば、市場は大混乱に陥り大暴落。

そう信じていたのは私だけではないはず。当時、エコノミスト達もそう言っていた。

何を言い出すのか分からないリスキーなアメリカ大統領が誕生すれば、核戦争が起きるかもしれない。

そんな「最悪の事態」を想像していた人は多かったはずだ。

私の投資人生において、あれほど分かりやすい金融市場の変動要因はなかった。

表が出るか、裏が出るか。まさしく丁半博打のような分かりやすさだと思った。

それまで株や投資信託をやってきた私だったが、儲けもしたが、損もしてきた。

儲けると言っても数十万レベルであり、庶民投資家の域を出ないレベルだった。

私は投資において、かねてよりひとつの夢を持っていた。それは「下げに賭けて大儲けする」という夢だ。

1929年の世界恐慌の時に、空売りを仕掛けて4000億円を儲けたジェシー・リバモアという人物がいる。

私が彼に惹かれたのは4000億円という金額ではなく、皆が損をしているなかで一人だけ儲けるというその投資スタイルだった。

どんなに気持ちがいいことだろう。世の中が悲嘆に暮れている中で、彼は密かにほくそ笑んでいたのだろう。

ジェシー・リバモアのような儲け方をしてみたいと、ずっと考えていた。

トランプ大統領の就任決定は、まさに世界恐慌の引き金ではないだろかと、私は考えた。

万が一、ヒラリーに決まったとしても株価は上がるだろうが大したことはない。しかしトランプに決まれば大きく下げるに決まっている。

勝負の時だと私は思った。私はトランプに賭けた。

株式市場が下げた時に大きく儲けられる投資信託を探すと、楽天日本株トリプルベアという投信に行きついた。

基準価格が日経225先物の値動きの逆方向に3倍動くという優れモノだ。

私は楽天トリプルベアを2,700万円分購入した。そしてトランプ当選を祈った。

11月8日。一般有権者による投票および開票が行われ、トランプの当選が決まった。

私は身震いした。全身の毛が逆立った。

「私は勝った。」

そう思った。

明日から数か月で、日経平均は少なくとも25%は下げる。

それはすなわち、楽天日本株トリプルベアが75%上昇することを意味した。

私の2,700万円は4,725万円になる。

そう確信した。

翌日の日経平均は前日比920円安の16,251円で取引を終えた。

私のトリプルベアの基準価格は6,914円から8,064円に跳ね上がった。

2,700万円は3,150万円になった。私はたった1日で450万円を手にしたのだった。

笑いが止まらない状態とはまさにあの時の私だ。儲けはそれで終わりではなく、明日も明後日も膨らんでいくに違いなかった。

 

ところが・・・。

 

想定外の事態が起きた。

その日の夜のNYダウが大きく上昇したのだ。

それを受けて、日経平均は前日比1,093円の大幅上昇をした。

トリプルベアの基準価格は6,385円に下がり、評価額は2,500万円になった。

私は1日にして650万円を失った。

何が起こっているのか分からなかった。

なぜ、株が上がるのか。

トランプで世界は無茶苦茶になるはずだったのに。

私の予想は裏切られた。

日経平均はどんどん上がっていった。

世界はトランプを受け入れた。もう、世界恐慌は起こらない。

1か月後、日経平均は19,000円を超え、トリプルベアの基準価格は4,400円になった。

わたしはトリプルベアを全て売却し、980万円の損失が確定した。

ヒラリーが勝つと予想して、トリプルブルに賭けていれば、どっちが当選しても儲けられたのにと考えたが後の祭りだ。

下げに賭けることは本当に恐ろしい。素人は上昇だけを期待して普通に株を買っているくらいのほうがいいということか。

 

売り豚として利益を出すことの難しさ

【ファイナンシャルプランナー浅野】

 

下げ相場で利益を出そうとする人のことを、専門用語では「売り方(うりかた)」と言います。

しかしネット上ではよく「売り豚(うりぶた)」と揶揄(やゆ)されています。豚はとてもカワイイ動物ですが、コロコロと太っているその見た目のせいか「豚のようだ」と言われて喜ぶ人は少ないでしょう。

つまり売り方は投資家から嫌われている存在だということです。

「下げ」に賭ける「売り方」は、相場の下落を助長する存在ですので、「上げ」に賭けている投資家にとっては迷惑な存在です。

そもそも相場が下がることを期待して利益を出そうとする考え方そのものが、ひねくれていると言わざるを得ません。

二重の理由で売り方は嫌われる存在だというわけです。

嫉妬するのであれば自分も売り方に転身して利益を出せばいいだけの話です。豚と言われようと何と言われようと、利益を出した者が勝者となるのが投資の世界です。

ところが売り方として成功するのは、実のところ非常に難しいと言われています。

相場が上がるか下がるかは二つにひとつであり、リスクはどちらも同じではないかと考えがちですが、実際に「下げ」に賭けてみるとひとつの恐怖に直面します。

「上げ」に賭けているときに相場が下がった場合は「自分だけではなく世の中のほとんどの投資家も同じように損をしているはずだ」という安心感を糧(かて)に含み損に耐えることができます。

ところが「下げ」に賭けていて相場が上昇すると「損をしているのは世の中で自分ひとりだけではないか。自分だけ取り残されていくのではないか。」という強烈な疎外感が襲ってきます。

売り方として利益を出した人で有名なのは、ジェシー・リバモアです。彼は1929年の世界恐慌の際に4000憶円の利益を手にしました。ところがその5年後に破産しています。売り方として利益を出し続けることの難しさを象徴しています。