【ファイナンシャルプランナー浅野】

 

大損をしてしまう個人投資家に共通する特徴のひとつが、「全力買いの衝動に駆られる」ということです。

「全力買い」とは、自分の貯金のかなり多くの割合の金額を、株・投資信託・FXなどに投入してしまうことを意味します。

私は、自分の貯金の7割以上の金額で市場に参加している人は、全力買いをしていると言ってよいと思っています。

個人投資家が全力買いの衝動に駆られてしまうのには、理由があります。

投資に参加するということは、銀行の定期預金の金利の低さに不満を持っているからです。0.01%しか金利がつかない定期預金よりも、ダイナミックにリターンが得られる株や投資信託のほうが魅力的だと感じているからです。

投資に参加する人が、魅力のない定期預金に預ける金をできるだけ少なくしておきたい、と思うのは自然なことです。

一方、追い込まれたあげくに、全力買いに至ってしまう個人投資家も少なくありません。例えば、貯金の半分を使って購入した株が下がり、平均取得単価を下げるために買い増しを続け、その結果、投入した金額が7割を超えてしまう、というようなパターンです。

いずれの場合にしても、全力買いをしてしまうことは大損への第一歩となります。

全力買いをしたとしても、数多くの銘柄を購入しておけばリスクの分散ができているから大丈夫だ、と言う人がいるかもしれません。

しかし、それは大海に向かって多くの小舟に分乗して同時に出航するようなものです。市場の大きなうねりは全ての金融商品を飲み込み、企業業績の好不調に関係なく軒並み下落します。

このリスクを回避するために必要なことは「時間」の概念です。

先ほどの小舟の例でたとえると、時間をずらして舟を出すということです。最初に出航した舟が荒波で転覆したとしても、海が穏やかになるのを見計らって、次の舟を出せるようにしておくということです。

手元に貯金を残しておくということは決して守りの考え方ではありません。次に出航するための舟を残しておくという、計画的な攻めの考え方のひとつだと、私は考えます。

この、時間を考慮したリスク分散ができるかどうかが、投資の世界で勝つためには必要になってきます。

全力買いをせずに手元にお金を残しておくことの重要性は、リーマンショックの時に話題となりました。

リーマンショックで日経平均株価が7000円にまで下がった時、「株価は企業価値を下回った」と言われました。つまり、その企業の資産・知的財産のすべてを売却した価格よりも、株価総額のほうが低くなったのです。誰の目にも「下げ過ぎ」の状態だと分かりました。

あの頃、街中の株価ボードを見つめるサラリーマンたちがテレビのインタビューで口をそろえて言っていたことが、「お金があれば株を買いたいです」ということでした。

全力買いをしていなければ、あの好機に株を買うことができたのです。あれほどの好機を目の前にして、多くの個人投資家は買うに買えずに、歯ぎしりをしていたというわけです。

全力買いという魅力は個人投資家を常に誘惑してきます。少しでも多くのリターンを得たいと想うその気持ちが強ければ強いほど、全力買いの誘惑も強くなります。

投資で勝っている人は、必ず防御が上手です。

全力買いはボクシングで言うと、ノーガードでグローブをブンブン振り回して相手に向かっていくようなものです。うまくいけば相手のアゴにヒットしてKOを奪えますが、逆にカウンターでダウンさせられる可能性が高い危険な戦法です。